【散文】猫に生まれて

散文

 雨の気配とか不吉なものとか寂しそうとか、なんとなく、ぼんやりと、言葉にならないものがたまにわかる。

でもいつもうまく言葉は喋れなくて、そういうときの私はただにゃあって鳴いているみたいなものだ。

そういうとき、君はやさしく頭を撫でてくれる。

「どうしたの」
「なんでもないよ」

本当になんでもないのです。
そうしてくれたら、もう十分だから。

でもきっと君も、そんなぼんやりとした言葉にならないものをちゃんとわかるんだね。
そういうときは嬉しくていつも黙って君の隣にぴったりくっついたり、その大きな肩に擦り寄ったりする。

私が私としての終りを予感してそっとどこかへいってしまおうと諦めたとき、君が見つけてくれた。
「うちの子になる?」
もう少し生きてみようかなと思った。

この雨が止んで、何度同じ春の風を感じても、なんて思って遠くを見るふりをした。
でももうどこかにいってしまおうなんて思わないよ。
大丈夫、ちゃんと、ここにいるからね。

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