「図書館奇譚」を読んで。

村上春樹

 村上春樹氏の短編集「カンガルー日和」の最後にある「図書館奇譚」。この物語だけ他と比べて長さがあります。

「カンガルー日和」の中に入っている短編の多くは、日常の些細なことや一度は思いついたことのある子供の時の空想のようなことをタネにして書いているように思えるのです。

そこを根本にして、その上で春樹氏独特の世界観やユーモア、そしてメッセージを入れ込んでいるように見えるのです。

そしてその最たるものがこの「図書館奇譚」であると思えるわけです。

先ほど春樹氏の「世界観」ということを言いましたが、その代表とも言えるであろう「羊男」が登場するのです。

この「図書館の地下世界」という多くの人が夢見たであろうことを基盤とし、そこにストーリーをつけ、しかも「ちゅうちゅう吸う」などというある種のシュールさと奇妙さも兼ねそなえたような言葉が使われています。

その中に儚く美しい描写や「新月」などという綺麗な表現などを散りばめ、そこに春樹氏お得意の素敵なセリフで仕上げているわけです。

しかしおそらくはこの作品は「僕」という人物の夢の中の話なのではないかと思います。老人の目が突然大きく見えたり、ムクドリが肥大化して犬を殺したりという場面や、記憶の一辺にある黒い犬がこんな場所に出てくるなど、夢と思える書き方がものすごく巧みになされているのです。

「夢の中で図書館の地下世界に入り込んで(精神的にという意味でも)殺されかけた」

そんな設定は結構多くの人にも作れるのだとは思うのです。しかし、このような表現で胸に響くような流れと言葉を使いこなし、純文学に仕上げていくその能力がある。それは読んでいて確信したことでした。

「図書館は知識を与えているだけ。だから不公平」

という趣旨の言葉は、私には思いつけないだろうとも思いました。私にないものを春樹氏は数知れず持っているし、春樹氏はまさに春樹氏の文脈の中で生きているのだということをはっきりと思い知らされる作品であったと感じます。

私も私の文脈で生きたい。

そう思いました。

本自体の感想とは異なるかも知れませんが、本を読んだことによる自己啓発の備忘録として、ここにこんなことを書かせてもらいました。

これからも春樹氏の本を読み続けたいと思います。

では今回はこんなところで。お付き合いいただき、ありがとうございました。

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