村上春樹「1973年のピンボール」感想解釈~鼠三部作感想シリーズ3~

村上春樹

 私は今鼠三部作に関する記事を続けて書いているのですが、今回はそのうち、「1973年のピンボール」についての記事を書いていこうと思います。

 鼠三部作(青春三部作ともいう)とは、僕と鼠という二人が必ず登場する本ついてのことで、「風の歌を聴け」「1937年のピンボール」「羊をめぐる冒険」からなっています。

 今回はそんな鼠三部作のうち「1937年のピンボール」の解釈を述べていきます。

 この小説に関しましても二つに分けて記事を書こうと思いますのでよろしくお願いいたします。

1、 1973年のピンボール解釈感想。主に感想

 文庫本26ページに、この小説の主題のようなものが書かれています。「これは「僕」の話であるとともに鼠と呼ばれる男の話でもある。」そして、「出口があればいいと思う。もしなければ、文章を書く意味なんて何もない。」

 前者はよく理解できますね。このままの意味だろうと思います。後者は「入口と出口」についてです。この「入口と出口」という観点は、鼠三部作及び「ダンス・ダンス・ダンス」でも重要視されているものなのではないかと思います。

 つまり、少なくともここでは物事には必ず出口がなくてはならないと彼は思っているのです。この「1973年のピンボール」の中には、鼠取りを仕掛けたが、かかった鼠をどうすればいいかわからず放置したところ四日目にその鼠が死んだというエピソードが書かれています。そして僕はそのことについて、「物事には必ず入口と出口がなくてはならない」と述べています。「鼠」という動物が死ぬことには、鼠三部作において何かの暗示が含まれているのではないかと思いますが……。

 しかし「ダンス・ダンス・ダンス」では自分という存在は部屋にいて、皆入ってきては出ていくということに関して少々憂いているようなシーンもあります。これはこの段階での「僕」からするとちょっとした矛盾ですね。ここは、「ダンス・ダンス・ダンス」について考えた時にまた少し詳しく考察したいと思います。

 とにかく今は「1973年のピンボール」ですな。

 「出口があればいいと思う。もしなければ、文章を書く意味なんて何もない。」というのはどういうことなのでしょうか。出口のない小説。出口のある小説。

 小説には必ず終わりがあります。しかし出口と終わりはここでは大きく差別化された概念として表現されているのです。

 出口のない小説とは、そこで全てが解決して良い方向に進むもののことを言うのではないかと思います。これは私の勝手な考えですが、「ハッピーエンドに準ずるもの」つまり全てが丸く収まり、誰も(心身どちらの意味をとっても)死なない小説には出口がないのではないかと思うのです。その先に何も見えてこないからです。その小説の中で完結して、その外に出る必要がないからでもあります。

 すると鼠の書く「誰も死なない」小説には出口がないとも言えます。実際鼠の書く小説のラストはわからないのでなんとも言えませんが、そういうことを言っているのかもしれないと思ったわけです。鼠のいう「蝉や夏風のために書く」というのもそうですね。その文章の範囲を出る必要がない。そういう文章なのかもしれません。

 逆の出口のある小説というのはその反対です。文章の外に出てみる必要がある。バッドエンドに近いものです。また、誰かが死んだり心を病んでしまうことで主人公が別の形で人生を歩む必要が出てきたりするということです。

 そういう文章でなければ、そのようなものを読んでも残しても感じられるものや会得できるものが何もないからそのようなものに意味がないと、ここでは言われているわけですね。

 そう考えると、含まれた意味はなかなか現実主義の具現化のようにも思えますね。

 そしてかなり気になるのが双子の存在。私はこの双子は現実にいなかった可能性もあるな、と考えています。「この二人と過ごした時間がどれほどかわからない。」「時間感覚が鈍っている」というようなことが書かれているところをみるにそう思ったのです。

 ではどうしてそのような半分幻覚のようなものを見てしまったのか。これは「羊をめぐる冒険」に誘われはじめているというのが一つ。もう一つはそのこともあってか鼠に変化が起きつつありますね。という要因が挙げられるのではないでしょうか。その前に双子と過ごすことで人間らしさやその人生の変遷を思い返す機会を得ているのではないかと思うのです。

 そしてそんな二人を見ていると「遠くまで来てしまったような気がする」と表現されている場所がありますが、ここで双子の存在が細かな時間感覚を見失わさせる代わりに大きな時間の流れは感じさせう存在であることがわかりますね。

 そして「1973年のピンボール」において重要なのはやはり鼠の変化であると言えると思います。そこについては次の章で言及しようと思います。

 ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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