あいみょん「さよならの今日に」に自作のショートストーリー添えてみた

ショートストーリー

導入

 newszeroのテーマソングにも抜擢されていた、あいみょん「さよならの今日に」の歌詞からストーリーをつくってみました。

 そして、こちらはまったくの私的見解であり、何か公的なものに基づく見解ではありませんので、その点ご理解いただきますようお願いいたします。

 では、ストーリーをお楽しみください( ´ ▽ ` )/

ストーリー

私にも、夢があった。いつ諦めたのだろう。決定的なタイミングはわからない。でもとにかく今はもう諦めたような気持ちでいる。そもそも、諦める必要なんてあったかな。なかったのに、怖くてやめてしまったのだろうか。

 歌うことが小さい頃から大好きだった。歌を歌って目立ちたいとかいうことではなく、楽器や、バックミュージックの中に自分の声を当てはめていく、その感覚が好きであったのだ。自分の声が一つの楽器になるみたいなものだ。私は高校に入学してすぐに、軽音楽部に所属した。そのとき、その事実はもちろん両親の知るところとなってはいたが、特に反対はされなかった。しかし私には妹が三人もいるため、さすがに楽器は買ってもらえなかった。私バイト代を叩いて買ったギターを使って、バンドの中ではギターボーカルを務めていた。女子だけで構成した、四人組のバンドだ。

 私のバンドは部内の他のバンドに比べて揉め事が少なく、仲が良かった。賞も何度か受賞し、勢いづいてきたので、このままバンド活動を続けてプロを目指したいともおもっていた。少なくとも、私は本気だったのだ。しかし、三年生になって最後のコンクールが迫ってきたというとき、みんなでファミレスに行った時のことであった。全員が席に着くと、初めは談笑していたのであるが、途中から、空気が淀んで、何かよくないものが現れてしまうような、そういう類の気配がした。そのとき、バンドの中でドラムを担当していたD子が、ハンバーグを切っていた手を止め、ナイフをフォークを鉄板に寄りかからせるようにして置いた。

「私ね。公務員にならなくちゃいけないの。バンドは、初めから趣味のようなもので。だから、その勉強もしなくちゃいけないし、とにかくもう、今度のコンクールが終わったらバンドにはいられなくなるの。ごめんね。」

 私は驚いて言葉に詰まった。キーボードのK美だけはその事実を知っていたようで、兄弟の菓子を盗んだ子供のようにわざとらしく、D子と目配せした。そしてセットのケーキを一口頬張ったかと思ったら、今度はまたメインディッシュの皿の端に置かれたポテトを口に放り込んだ。私はその行動を訝しみながら、次の言葉を探さなくてはならなかった。そこで先に口を開いたのはベース担当のB華だった。華奢な手をテーブルの上で組み、黒い髪の毛はエアコンの風でふさふさと揺れた。

「実はね、私も、みんながあんまり真剣だったから言えなかったんだけど、小さい頃からトリマーさんになりたかったの」

 その言葉に、K美は深く頷き、D子は共感した。私だけが、まるで別の場所にいた。それに、私だけが強い意志を持って、茨の道を進もうとしていたと思うと、どこか恥ずかしくも思える。その場にいたメンバー全員が私の言葉を待っていた。私は三人に口先だけの激励の言葉を送るしかなかった。そしてただひとこと、悲しい、と本音がこぼれ落ちてしまったが、それを拭ってくれる言葉はなかった。

 今思えば、そのときに自分のプロになりたい気持ちを伝えたらよかったのかもしれない。あるいは進学先でまた新たなバンドを組めばよかったのかもしれない。しかしあの日、そのような心模様は消えてしまった。おそらく、彼女らの言葉の先に、「社会」というものを見て、その実体に幻滅したのだ。

 しかしあの頃の私は確実に有意義な時間を過ごしていると、自分自身の時間に価値を見いだせていた。だからといって過去は変えられないのだから未来を変えるためにまた一念発起すれば良いということでもない。そのような月並みな発想は今の私にとっては何の意味を持たない。それほどに私は社会の波に呑まれて、諦めの心ばかりが大きく育った。順応してしまったのだ。毎日会社に行って、憧れなど持たず、いつかの夢も忘れている状況そのものに。別段会社が度を超えた嫌悪に値する場所であるということではない。ただ、それに染まった自分が悲しい。夢をみてそこに向かって走っていた時はどれほど豊かであっただろうと、まったく思わないといったら嘘になる。

 安定も夢も欲しくて、結局妥協による安定を選んだ私はつくづく半端者だ。でも誰もがそんな半端者である自分を望んだ。メンバーだってそうだ。それに両親も内心胸をなでおろしたに違いない。そうはいえども、あれこれ考えて今に満足できずに生きていくのはやはり私の好むところではない。

 もっとカクテルのような心になれたらな。それも、少しだけアルコールの割合が高いもの。それでいて甘くて穏やかな香り。そんな心に導かれた少しゆるやかな思考で生きていきたい。ちょっとお酒が入ったくらいの、盲目さをもちながら。

 もうあの夢は過去のこと。その過去の中にいた人だってもう過去そのもののようなものだ。

 それに今は確実に今で、変えようもない。もっとどこか流されるようにして生きてみても良いのかもしれない。

 今、スーツを着たまま、オーディションの応募はがきを真っ赤なポストに入れようとして手を引っ込めた。そしていつものデスクに走って向かう。まだ本調子ではない太陽が私の背中を不器用にあたためていた。

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