indigo la End 「チューリップ」に自作ショートストーリーを添えてみた

ショートストーリー

導入および注意事項

 失恋の曲ですが、あえて少し曲がった失恋物語を作ってみました。

 そして、こちらはまったくの私的見解であり、何か公的なものに基づく見解ではありませんので、その点ご理解いただきますようお願いいたします。
 合わせて、この記事では私自身がこの曲に触れて感じたことから物語を綴ったものとなっておりますので、ご自身の中にこの曲への確固たるイメージなどがあり、それに抵触するような見解は見たくないという方はご覧にならないことをお勧めいたします。

 では、ストーリーをお楽しみください( ´ ▽ ` )/

ストーリー

彼は言った。まさに私が愛を保持するとき。彼は私に愛を語らず、なにやら小難しいことを言ったのである。

「あれこれと考える心が、愛と置き換えに芽生えているんだ。今の僕にとって君は義務だ。そうなってしまえば終わりなんだよ。君はその時点で僕の愛の対象ではないし、仮に僕がそのように振る舞えたとして僕はじっと愛について考えなくちゃいけなくなる。」

「それはどういうこと?」

「言わせないでくれ。別にはっきり言いたいわけじゃないんだ。」

「でも何か抱えたまま私の隣にいたってそれは良いことではないでしょう?」

「うん。」

「だから言ってよ。」

「僕は君をもう愛せない。つまりそれは僕といることが君にとって価値あるものではなくなるということだ。」

「そうね。」

「だから僕はもう君に会うことはない。」

「わかった。」

 思い返せば結構淡白な別れ話であった。きっと彼は言葉が見つからなくて「君といることが僕にとって義務だ」という言い方をしたけれど、本質的にそうなのではなくて、私に対する愛ではなくて、情が先行してしまった結果なのだろう。あれこれ考えてしまう心をもって私と接していた。湧き上がる気持ちやらなんやらは何処かに行ってしまったということだ。

 思えばその傾向はある時から見え始めていた。

 彼は洒落た見た目にそぐわず、学問に長けていた。彼は哲学が好きで、長期休暇とあれば西洋のよくわからぬ場所に行っては、「哲学のオリジン」を探し求めていた。

 彼は帰ってくると土産話を永遠と話したが、私にはまるで古典文学を丸ごと覚えたインコの話のようにしか聞こえなかった。つまり私にとってどうでもよかったのだ。彼の話も、彼の学びも、彼の心も、彼の関心ごとに関しても。どこからか私は「彼の関心ごと」における「私」の維持でさえどうでもよくなってしまったのだろうか。しかし私は彼のことを愛していたのだ。

 そうだきっと私にとって彼が「西洋に行く」ということは何の意味も持たなかったし、不必要なことであったのだ。しかし彼は、彼にとって「西洋に行く」ことの意味を感じていたし、それは彼をかれたらしめる大きなパーツであったのだろう。

 それは悲しいことであるけれど、我々にとって仕方のないことであった。つまり相性が悪かったのだ。見つけたはずの同じ模様の施された貝殻は、互いに大きさが違っていた。まるで盲点だった。だって我々は、貝殻の柄が合う相手だけを探していたのだから。

 ドライな別れの後、たちまちウエットになる一人の私。鉢に植えた赤いチューリップの球根の上に私の涙をかけて育てたら、きっと白い花が咲くのだろうと思いながら袖を濡らす。

 出会った春を思い出して。

コメント