『二十歳の原点』1969.1

本について

 今回は『二十歳の原点』の一月のパートについて細かくお話をしていきたいと考えています。ここに書いてあることを私がどう捉えたのか、そういった話ができればと考えています。

1、完全、そして不完全

 この日記で語られている「生命の発露」とはまさに誰しもが不完全であるのを完全にしようとする行いであってその意味では誰しも同じ価値を持つとも書かれています。

これは村上春樹氏の『風の歌を聴け』の中でも語られたテーマでしたね。「本当の強さ」(完全性)を獲得するために悶絶する鼠を前に「本当の強さなどなく、強くなろうとしていたり強いフリをしている人間がいるだけだ」と一蹴する僕が描かれたシーンです。根本的には人は常に弱く(不完全で)、その克服を目指しているということが述べられています。(↓これについてきっちりと書かれているのが以下の記事です)

しかしこの『二十歳の原点』冒頭にてこれが語られている時点で私は思ったのですが、この人はもう何もかもが絶望的で悲観的な考えのもと生きているのだろうというふうに見えたのです。

私も基本的に人生に対してそういう考え方をしています。

というのも、「不完全さ」というのが克服し得ないものであるにも関わらず、それを克服しようという営みを続けていかなければいけない(そうすることでしか自分に価値を与えられない)ということへの絶望感がこの冒頭で語られているのではないかと思ったからです。

私もその気持ちはとてもよくわかるし、そのことを考えているといてもたってもいられなくなるような衝動を感じます。

そして自身の顔の完全さが、内面の不完全さに釣り合わないので眼鏡をかけるべきだと書いていたのですが、私はこれを読んでため息が出るほど感激しました。

ああ、そういうふうに云えばいいんだ、と。

2、自分の弱さ

 生の燃焼というのがそもそも不合理なものであるのに、自分の意思を持って合理不合理ばかり気にしているように見える。しかし自分の意思などあるはずがない、とそう思っているのだと思われる記述がありました。

作者は親兄弟友達、皆が自分の意思を持っているように自分では思いながらも本当はそうではなく何かに操られているのかもしれないとも感じているようでした。

「社会」の作り出した家族という身分や立場そういったものにひきつけられて

それに私も世の中の人が合理不合理に囚われすぎているようには常々感じています。

しかし、この作者は、「肉体は合理で割り切ることができない。」その上で「肉体を離れて人間は存在しないし、精神も存在しない」「肉体が生命もつ」と、こう書いています。

これはそれこそ古代インドの唯識のような考え方なのでしょうか。肉体を離れて仕舞えばその精神の表明はできないから、ないも同然である、と。

私は前に、「肉体を離れて人間も精神も存在しない」ということに気がついて愕然とした記憶があります。そうして私は必死で「心身二元論」を信じることにしました。

確かに表面上の話をすれば肉体がなければ精神があることは証明できず、それはおろか認識することすらできないことはわかっているのですが、それでもその存在は認めて欲しくて、私はそれについて悩むことから逃げて「心身二元論」を信じることに考えをシフトしてしまったのです。

3、なぜ笑うのか。

 一月の章の最後の方でも作者は、自分が知らぬ間に何かに動かされて人の前で笑っているのではないか、なぜそんなことをしているのだろうと不安になっているような記述をしていました。

私もこれについて時々不安になってくることがある。だから私は私であると強く信じているしそれが覆されそうになるとひどく混乱する。

例えば私も含めてあらゆる人間は原子の集合体であって木っ端微塵になればただの肉片だ、これはその通りだと思うけれど改めて科学非常主義者なんかにこうしたことを言われるとひどく混乱する。

ろくな論理もなしになぜ笑うのかそれすら押し込めてしまおうとしている。

私がそのことを赤裸々に吐露するのは執筆という現場においてだけであると思いますが、それゆえ私は何かを書くことでそのつらさみたいなものと折り合いをつけていこうと思っているのでしょう。(自分のことなのに言い回しが曖昧ですが)

彼女がしっかりと自分の中の問題意識みたいな部分に正直な言葉をもって対峙し、確実に死に向かっていく様はひどく美しく格好の良いものがあると感じます。

まとめ

 ここで扱ったのは彼女の死の六ヶ月前の日記についてであるが、彼女は本当に真っ直ぐに色々なものと向き合っていたのだろうと思う。

私は知らぬ間に「心身二元論」やなんやかんやに逃げていたようです。

そうしたものを正面から捉えたい。そう思いました。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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